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2013年3月24日 日曜日

自律神経トレーニング


今はまだウエイトトレーニングや心肺機能だけに注目が集まっています。医学的知識をほとんど持たないトレーナーが指導しているため、やむを得ないことです。しかし、ずっとそのようなトレーニング法だけを継続すれば、思わぬ障害を抱え込むことにもなりかねません。

―― 自律神経を操るには

従来の慣習で、ハードなトレーニングを行えば身体が鍛えられ結果が出ると考えている指導者はまだまだ多いようです。
極限まで身体を鍛え苛め抜くことはもちろん、自信にもつながり意味があります。
しかし、競技生活中、ずっとそのようなトレーニグ法を継続すれば怪我にもつながり疲労蓄積が改善されません。

また、ハードトレーニングは筋肉以外の腱や靭帯などの組織に大きなダメージをもたらします。格闘技であれば脳へのダメージが確実に蓄積します。

すでに根性論だけでは世界と闘うことはできませんし、科学や医学がこれだけ進歩した時代には、新しいトレーニングの方法の導入が必須です。

現在、私は順天堂大学医学部でスポーツ医学研究に従事するだけでなく、トップアスリートの指導者への研究や指導を行っています。

アスリートの肉体をハードと考えるのであればソフトウエアは心と自律神経機能になります。
運動を制御するのは大脳や小脳だけではありません。
自律神経が身体の細かい部分や多くの器官をコントロールして生体機能を保持しています。
この
身体をコントロールする自律神経を鍛えることは筋肉や心肺機能を鍛える以上に重要であることがあまり知られていません。

私たちは、呼吸によって唯一、自律神経機能を随意的にコントロールできます。
心拍も消化も発汗も瞳孔の動きも自分の意志ではコントロールできません。

呼吸は心拍変動を生み出し自律神経に大きく左右し副交感神経機能を向上させることが科学的に知られています。
昔から、太極拳、空手、古武道、ヨガ、瞑想・・・呼吸法が極めて重要であることは経験的に知られていました。
この呼吸によるアスリートのトレーニングの手法はすでに軍事、宇宙開発、各種病気の治療にも導入されているすぐれた手法です。

私自身、これまで国内で最も多くのアスリートにこの呼吸法のバイオフィードバックトレーニングを指導させていただき驚異的な成果を得てきました。
もちろん、私の下を訪れた多くの格闘家もこのトレーニング方法でコンディショニングを行い素晴らしい結果を出してくれました。

バイオフィードバック(Biofeedback)とは、本来感知することのできない生理学的な指標を科学的にとらえ、対象者に知覚できるようにフィードバックして体内状態を制御する技術、技法です。


―― なぜ呼吸法は効果的?

肉体的にも精神的にもストレスが加わる格闘技は、まさしく副交感神経機能を向上させ緊張の中にリラックス状態を作るトレーニングが必要なスポーツです。

ヒクソングレーシーもヨガによる呼吸法をトレーニングやコンディショニングに導入していることはあまりにも有名です。
アテネ五輪男子ハンマー投げ金メダリストである、室伏広治選手も呼吸法によるトレーニングを受けていたことは有名です。
武道に呼吸法。

しかし、これまでどうして呼吸法がアスリートの身体能力を向上させるかよく理解されていませんでした。
今回はその仕組みを解説します。

心拍数と血圧は、他の生理的システム同様、健常人において複雑な変動パターンを示し、これらは複数の周波数振動で特徴付けられています。 これらの振動は、ホメオスタシスを反映しています。


RSA(呼吸による心拍変動)振幅を増加させる為のバイオフィードバックトレーニングでは、0.1Hz(1回の呼吸を10秒かけて行う)の付近でのみ心拍変動が最大化します。このトレーニングは、ゆっくりとした呼吸で0.1Hz付近に呼吸数を合わせると、呼吸により引き起こされた振動(RSA)とその呼吸数で自然に発生する振動間に、一部圧受容体反射活動によって引き起こされる同調が起こります。

つまり10秒で1回の呼吸(5秒吸って、5秒吐く)を行うことで心拍変動が最大となり、自律神経機能が向上します。特に副交感神経機能レベルが向上します。

緊張した時にゆっくり深呼吸すると落ち着くのはこのためです。

RSAとは呼吸によって起こる心拍変動のことで心拍数は吸気で増加し呼気で減少します。 これは、心拍リズム変動メカニズムの内のひとつです。 呼吸に関係づけられる心拍変動は健常人においては通常0.15~0.4Hz(9~24呼吸数/分)の周波数帯で起こりこの周波数帯の心拍変動は、"高周波"心拍変動と呼ばれています。 同時に、0.05~0.15Hz(呼吸数3~9回/分)の周波数帯でも大きな振幅変動がみられます。この周波数帯での活動は"低周波"心拍変動を意味し、交感神経系および副交感神経系の両方の活動によって影響されます)。

心拍変動は老化によっても減少し、極度のストレスでも減少します。

それでは実際どうすればよいのか?

ロシアでは、バイオフィードバック技術を使って、RSAを随意的に非常に増大できる研究が進み、バイオフィードバックトレーニングが、自律神経機能が関係する疾病治療に役立つことが報告されています。Vaschillo(1984)は、人は低周波帯の特定の周波数、0.1Hzの辺りでのみ最高の変動振幅を生み出す事ができると報告しています。 大きなRSA振幅は間違いなくこの周波数帯で呼吸することによって引き起こされ、それはわずかの訓練で可能です。宇宙飛行士の訓練にも導入されています。


―― バイオフィードバックトレーニングの手順

最初はRSA変動を最大限に増やす為の訓練です。
最初は4~7回/分の特定の周波数で呼吸させ、呼吸の深さを出来るだけ一定に保たせます。 その為、目標呼吸数での呼気と吸気のペースが被験者に分かるようコンピューター画面上で上下する光の呼吸ペーサーを用意し呼吸します。 被験者はコンピューター画面上に呼吸ペーサーで示された指定の呼吸数で呼吸をし、光の上下の動きに合わせ呼気と吸気をするようにします。それに続くセッションで被験者はバイオフィードバックを与えられます。
 
つまり、ペースメーカーに応じて呼吸を繰り返すことで最適な呼吸の回数がわかります。
この場合、最適な呼吸回数とは最も自律神経機能が向上する回数です。
次のセッションで、被験者は心拍変動を起こす為のバイオフィードバックを直接与えられ、呼吸に関連して起こる心拍変動振幅を増やすよう指示されます。


―― RSAフィードバックの臨床的応用

RSAバイオフィードバックの臨床的効果に関する理論は、同調周波数で呼吸することにより圧受容体反射に大きな変動刺激を与えるトレーニングにより、圧受容体反射を効率的にすることです。

極限のストレスの中で業務を遂行する戦闘員や宇宙飛行士は自律神経機能を絶対的に安定させ向上させる必要があるため軍事や宇宙開発分野でこの研究が進んでいます。
アスリートも同様な条件下で競技パフォーマンス向上が要求されます。


―― バイオフィードバックと整調呼吸

心拍同調周波数は個人差があります。このため、個々人に要求される正確な呼吸数を決める為のバイオフィードバックが必要です。 訓練期間中、変動振幅最大値は減少し、人によっては呼吸数の4回/分の近くで最大心拍変動を得ることもあります。

バイオフィードバック技術は、個々に適した特定のリズムで呼吸させ、ある期間にわたり呼吸と圧受容反射機能の改善を促すようにするものです。


―― 武道の神髄

東洋のヨガや禅の修業は全てゆっくりとした呼吸を行います。 熟練者は、自分の体の必要性とペースで呼吸する事ができますが、RSAバイオフィードバック効果と同様です。東洋のこれらの修行は、個人の心拍同調周波数で呼吸する点で、RSAバイオフィードバック効果と同じ効果を生み出し、座禅中の禅僧に関する研究で(Lehrer , 1999)、瞑想中の禅僧は心拍変動の低周波帯もしくは超低周波帯で呼吸している事が分かりました。

全ての禅僧はゆっくりした呼吸周波数でRSA変動を増大させ、熟練禅僧においては1分間で1回呼吸し変性意識状態に入ることもできます。 この周波数帯は温度調節と交感神経調節を反映するという理論と一致しており、座禅が氷点下以下の状態で長時間行われても凍傷が生じないという奇跡が導き出されることもあります。

冷たさも痛みも感じない、いかなる外的環境も内的環境もコントロールできます。無我の境地です。


―― アスリートにおける心拍数

呼吸で心拍数は増減します。 吸気で心拍数は増加、呼気で低下します。 呼吸によって起こる心拍数の変化をRSA(呼吸洞性不整脈)と呼び、RSAは、自律神経系全体(心拍数、血圧、呼吸を含む)による調節を助ける為に、体に非常に強力な反射現象を引き起こします。 訓練の目的は、心拍変動の大きさを増大させることです。 心拍変動増大は、重要な反射運動を訓練し体のコントロールをより効率的に行えるのです。 

訓練では個人のRSAを測定し、呼吸による心拍情報が必要です。 これがRSAフィードバックです。 これによりストレスへの対応能力が増し、様々な肉体的および感情的障害克服しストレスに耐えうる身体を作り上げるのです。


腹式呼吸や特殊な呼吸法は不要です。
ゆっくり鼻から息を吸ってゆっくり口から吐くだけです。
一般的には5秒吸って5秒吐く。1分間に6回の呼吸。


厳密にはバイオフィードバックトレーニングシステムであるBiocom社のHeart Trackerというシステムを利用します。
ただし、エクササイズと同時に行う場合は、4秒吸って8秒吐く。といったように呼気を長く行う場合もあります。呼気に意識を集中することで容易に最大心拍変動が得られます。
呼吸法とエクササイズを組み合わせた手法が、「セル・エクササイズ」です。



世界で唯一の医学的根拠がある自律神経トレーニング法、セル・エクササイズの講演を行う 順天堂大学医学部 小林弘幸教授

今やセル・エクササイズは、多くの有名トップアスリートに導入され目覚ましい結果が出ています。
F1レーシングドライバー育成を目指す、NODAレーシングアカデミーでもセル・エクササイズ導入が決定し、多くの教育機関や格闘技道場、バレエスクールでもすでに導入が進み確実な成果が得られています。

ハードウエアである肉体を鍛えるだけでなくソフトウエアである自律神経機能強化が格闘家をはじめ多くのトップアスリートのトレーニングにジュニアの時から組み込まれていくことでしょう。

ロシア科学院医学的生物学的問題研究所(IMBP)が発表した実験では以下のように心拍変動を測定分析し宇宙飛行士の身体管理を行う実験プロジェクトが行われました。

火星への有人宇宙飛行(MARS‐500プロジェクト)に関する地上実験を2009‐2011にかけて行われた。
・500日間行われるプロジェクトの期間中、乗組員の健康評価と健康管理システムを含む、人間の生命維持サポートに関する様々な生物医学的テクノロジーのテストを試みる。特別に選ばれた6人の被験者は、火星までの飛行条件を模した隔離された気圧チェンバーにプロジェクトの期間中入れられる。

・MARS‐500プロジェクトの準備段階として、ロシア科学院はカナダのAutosun Health Technologyと北米のBiocom Technologies と共同で、MARS‐500‐Pと呼ばれるパイロットスタディ‐健常人グループの長期モニタリングにおける人間の生体の適応能力と疾病開発のリスクについて‐を行った。

Roman M. Baevsky, PhD
Professor, Head of Research Department for Biocybernetics


宇宙飛行士も格闘家以上に多大なストレス負荷がかかりますが、このストレス緩和のコンディショニングにもバイオフィードバックトレーニングが行われているのです。

宇宙プロジェクト、軍事目的にも応用されている自律神経強化法、呼吸法をぜひ、お試しください。

現在、順天堂大学医学部 病院管理学 スポーツ医学研究室では小林弘幸教授の下、最先端の自律神経トレーニングエクササイズ研究開発が進んでいます。
医学的根拠があるエクササイズやトレーニングを格闘界も他のスポーツ同様、導入する時期に来ているのではないでしょうか。

 


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