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2012年5月24日 木曜日

セル・エクササイズは検査で自分の身体を良く知ることから始まります。



選手は試合時のパフォーマンスを第一に考えますが、ドックターは試合前から注意し、そしてコンディショニング以前のメディカルチェックが必要だと考えます。今回は特に血液検査の重要性について紹介します。


●メディカルチェックの重要性
私は、医師としてこれまで多くのアスリートのメディカルチェックを行ってきました。リングドクターとしては格闘技の選手、国際マラソン出場するマラソンランナー、鈴鹿8時間耐久ロードレースに参加する前のレーシングライダー・・・。

トップアスリートは自らの肉体をギリギリまで追い込み極限の状態でパフォーマンスを発揮します。 このためにはコンディショニング前に必要なメディカルチェックが必須です。 今回は、代表的なメディカルチェックを解説してみましょう。

1:血液検査  2:尿検査  3:体組成検査  4:自律神経機能検査  5:問診
6:聴診  7:触診  8:視診  9:眼科検査  10:聴覚検査

が主な検査です。
今回はこの中でアスリートに対する血液検査に関することを解説します。

●B型肝炎チェック
アスリートへの血液検査は、病気の患者様への血液検査とは少し異なります。
一般の人間ドックでも採用されている内容ですが、アスリートに特化した項目が入ります。
また、最近ではプロボクサーが試合中の流血によって相手の身体に潜んでいた肝炎ウイルスに感染し急性肝炎を発症し長期入院するといったトラブルも現実に起こっています。キャリアから感染したB型肝炎による急性肝炎発症です。
場合によっては劇症肝炎に発展して命を落とすこともあるのです。
B型肝炎ウイルスキャリアに関する項目はコンタクトスポーツにおいては是非、出場者全員に検査を受けていただきたい項目です。

検査項目 内容 一般基準値 アスリート トップアスリート
赤血球数 各組織へ酸素運搬 男450~560 万/μl
女380~500万/μl
男500~万/μl
女450~万/μl
男550~万/μl
白血球数 一般に細菌感染により身体の中に炎症が起こると増加。アスリートにおいては肉離れ、筋膜炎、骨折などの外傷によっても数値が上昇。 33~90 万/μl   35~97万/μl
血色素数(HB、ヘモグロビン 濃度) 酸素運搬に関与。数値が低いと持久力が低下。 男13.8~17.5 g/dl
女12.0~15.5 g/dl
男15~
女13~
男16.5
女14.5
ヘマクリット(HT) 血液中の赤血球の占める割合。 男37~53%
女35~45%
男45%~
女41%~
 
血清鉄(Fe) 血しょうの中でトランスフェリチンと呼ばれるタンパク質と結合して運ばれる鉄。 男60~180 μg/dl
女50~160
  男180
女150
フェリチン 貯蔵鉄、肝臓、膵臓、骨髄で保存される鉄。
鉄の貯金量。
6~167 ng/ml 20~ng/ml 100~400ng/ml
MCH(平均赤血球血色素量) 貧血の種類を調べるもの。 28~34 mg/ml    
MCHC(平均赤血球ヘモグロ ビン濃度) 数値の低い人場合は多量の水分の喪失、練習や試合中、十分な水分補給が必要。 31~35 %   男34~36.4%
MCV(平均赤血球容積) 数値が高いほどストレスが大きい。格闘技系など激しいスポーツでは数値が高い。 85~100 fl   男85~100fl

※MCV、MCH、MCHCが低値を示している場合、鉄欠乏状態が疑われます。女性アスリートでは特に要注意。

身体の機能関連

検査項目 内容 一般基準値 トップアスリート
HDLコレステロール 善玉コレステロールと呼ばれ、動脈硬化を防ぐ作用がある。
継続的な運動トレ-ニングで値は上昇。
男40~99
女40~77 mg/dl
男60~
女55~
尿素窒素(UN) 尿素窒素は腎臓機能の指標。腎臓の機能が低下すると上昇。尿素窒素は脱水、消化管出血などでも上昇。スポーツ選手においては全身の疲労度を知る指標の一つ。値が高いと疲労度が高いと考えられます。 8~22mg/dl 8~20mg/dl
CPK  筋破壊により値は上昇。
値が高いと筋疲労。アスリートはトレーニング後は一般基準値より高い値を示す傾向にある。基準値より少し上限の300程度なら問題ないが、500を越えると、中程度の疲労と考えられる。700から800になると、試合では相当期間を取って、練習をかなり落としてレースに臨まねばなりません。1000以上はオーバーワーク。
男子38~196 IU/l
女子30~172 IU/l

※検査方法が2種類ほど有り、検査を実施した検査機関が示す基準に従うこと。
50~244が基準とする場合もある。
~230 IU/l
総タンパク(TP) アルブミン、グロブリンなどの、血漿蛋白質のすべてを総称。低値の場合の主な原因としては、アルブミンが低下する栄養障害・肝臓疾患・蛋白質の失われる疾患(ネフローゼ症候群、出血、蛋白漏出性胃腸症など)。蛋白高値の場合は、脱水、慢性感染症、自己免疫疾患、骨髄の病気が疑われる。 6.5~8.3  g/dl 7.5~8.0 g/dl

「スポーツ科学バイブル」(高畑好秀総監修:池田書店)を参考、一部引用させていただきました。

●後で気づく肝炎キャリア
さて、アスリートは一般的に健常人と考えられますが、中にはB型肝炎のキャリアやC型肝炎のキャリアの方がいます。
自信は症状が発症しなくても 格闘技の選手の場合は、試合中の怪我で出血した場合、相手の血液が自分の体内へ入り、この時、ウイルスに感染することも十分ある事故です。
AIDSのウイルス感染の可能性も否定できません。

コンタクトスポーツの場合の血液感染の危険性

コンタクトスポーツで出血の可能性があるアスリートは、試合前に検査が望ましいのですが現実ではプロ、アマ問わず ほとんど行われていません。
東海地方でも世界を狙えるホープとして注目されていた格闘家も急性B型肝炎で長期入院、戦線離脱で再起まで時間を要したケースもあります。
不運な場合には数%以下の確率ですが劇症肝炎という致死率が非常に高い肝炎に罹り命を落とすケースもあります。
AST(GOT)、ALT(GPT)、B型肝炎ウイルスマーカー(HBs抗原、HBs抗体など)、C型肝炎抗体、HIV抗体、梅毒血清検査などもチェックしておくとよいでしょう。

ここからは、この中で最も注目すべきは、B型肝炎のウイルスを身体に持っているキャリアに関して説明します。コンタクトスポーツを行うアスリートには絶対に知ってほしい知識です。

B型肝炎ウイルスからの感染の危険性

●B型肝炎キャリアとは?
成人は免疫機能が確立しているため、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染しても、多くの場合は発症せず自然に治癒します。一部の人では、急性肝炎を発症し、一過性の感染を経て治癒します。どちらの場合も、ウイルスは体から排除されており、HBVに対する免疫を獲得しています(しかし最近の研究で、健康上の問題はないもののごく微量のHBVが肝臓に存在し続けることが明らかになってきました)。

しかし、免疫機能が未熟な乳幼児、透析患者、免疫抑制剤を使用している人などがHBVに感染すると、免疫機能がウイルスを異物と認識できないため肝炎を発症しないことがあり、ウイルスが排除されず、ウイルスを体内に保有した状態<持続感染>になります。このように、ウイルスを体内に保有している人を "キャリア"と呼びます。

血液検査項目チェックシート

キャリアの約90%の人は一般的に、無症候期から肝炎期、肝炎沈静期と移行し、その後、無症候性キャリアのまま生涯を経過します。しかし、約10%の人は慢性肝炎を発症し、肝硬変、肝がんへと進行する危険性があるとされています。
慢性肝炎から肝硬変になると、肝細胞の多くが破壊され、血液の循環が悪くなるため、肝臓は本来の機能が果たせなくなります。そして長い年月の炎症により、肝がんを発症すると考えられています。
母子感染が多いため本人は検査するまで気が付かないこともあります。
日本には25歳以下のB型肝炎キャリアはがほとんどいません。

1985年6月からB型肝炎の母子感染防止事業がスタートしました。
ワクチンを接種すれば身体の中にウイルスの抗体が産生され感染がほぼ防ぐことができます。
もし血液検査の結果でキャリアとわかれば相手に感染させないように情報を伝えるべきですが、個人情報開示のプライバシー問題もあり現実には困難です。

B型肝炎の危険性
厚生労働省のホームページより一部引用させていただきました。

このためコンタクトスポーツのアスリートは自らの身体を守るため ワクチンの接種をお勧めします。
医療機関でご相談すれば適切な対応をとっていただくことができます。
医療従事者の多くはワクチン接種を受けており、私自身もワクチンを注射してB型肝炎ウイルスの抗体ができて感染を防ぐことができています。

B型肝炎の詳細な情報に関しましては、厚生労働省ホームページの感染症情報、B型肝炎について(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou09/pdf/01.pdf)をご参考にしてください。
注意事項や日常生活で気を付ける事、感染した場合の対処法や治療法などがわかりやすく解説してpdfとしてダウンロードできます。

アスリートも指導者も血液を介した感染症が存在する事実を必ず知っておく必要があります。不幸にも感染症に罹ったアスリートはただちに適切な治療が必要となります。
身体機能をチェックするための血液検査、ウイルスのキャリアや感染者をチェックするための血液検査は コンタクトスポーツを行うアスリートにとって必須であると考えます。

これまで試合前のチェックや所属ジムなので全く検査されてこなかった血液検査も選手たちの身体を守るうえで実施行ってほしいと考えます。
ボクサーのCT検査が義務付けられているように、血液検査を義務づければ試合中の肝炎ウイルス感染などはなくなるでしょう。
今後も専門医として、アスリートの健康管理、パーフォーマンスを上げるためのメディカルチェックを提唱していきたいと思います。


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