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2010年11月16日 火曜日

陸上トレーニングを空手に応用する!!

陸上競技のみならず多くのトップアスリートの指導を行う さかえクリニックTC監督 北村肇氏に格闘家にとって重要なトレーニングをご紹介していただきます。

2008年北京オリンピック男子100m決勝でウサイン・ボルト(ジャマイカ)がマークした9秒69は驚異的な世界新記録であり、更に2009年ベルリン世界陸上で自らの世界記録を更新した9秒58は世界を震撼させた驚異的な記録でした。

陸上競技のスプリント競技は単純にA地点(スタートライン)からB地点(フィニッシュライン)までの区間順位と到達時間を争うシンプルな競技です。シンプルさ故に身体の根源的な働きが要求される種目と言えます。
ボルト選手はオリンピック、世界選手権で世界新記録を達成したことから人類史上最も速い男の称号を与えられました。100mの勝者は大会によって様々な称号が与えられます。レベルは違っても日常生活にとって取るに足らない100分の1秒に一喜一憂しているスプリント選手がどんなトレーニングに取り組んでいるか誘ってみましょう。

「速く走るにはどうしたらいいですか?」よく受ける質問です。その場合「あなたはどうしたら速く走れると思いますか?」と逆に聞き返します。すると次のような回答が返ってきます。「速く脚を動かす」「腕を前後にしっかり振る」「大きなストライドで走る」「スタートを速くする」様々な回答が有りますが、私は「全て正解」と答えます。技術的な回答は凡そ間違いではないのですが、最も重要な要素は「速く走ろうとする気持ち」であることを理解させます。陸上競技、取分けスプリント選手に望まれる最大の課題は「速く走りたい気持ちの強さ」と言えます。この要素は「~たい」の部分を置き換えることで全ての競技スポーツにも通じる要素です。当たり前のことですが、この気持ちの強さが素質の有無とも断言できます。従ってスプリントトレーニングにおいて何よりも重要なファクターは「速い動作の獲得」に他なりません。筋の働きから速い動作とは何か説明しましょう。

トレーニング計画を構成する過程で今回は次の三つの動作を考察します。
・ 筋の速い収縮を促す動作
・ 筋(腱)の伸張反射を促す動作
・ 体幹の働きを反射レベルまで高める動作

スプリントの場合筋の持つこれら三つの固有の働きを利用して重心移動に転換することが狙いです。簡単に言えば筋の特性を利用して速く前方重心を移動することです。その際身体を速く移動させることに対して発生する最大の障壁は重力です。身体は重力の影響で常に下へ下へと引っ張れています。この重力に抵抗する筋力、パワーを培うのがトレーニングの本質と考えています。単純な動作に対して系統付けトレーニングとして本質的なものを獲得するのが陸上競技の練習です。

垂直跳びを例にして考えて行きましょう。

垂直跳びで好記録を出すための要素として何が一番重要でしょうか?

そうです。「高く、真上に跳び上がろうとする気持ち」です。高く跳び上がろうとしなければ、好記録は望めません。次に技術要素として必要なものは何でしょう?答えはスタンス。足の幅とつま先の向きです。広すぎても狭すぎてもダメです。最適の足幅はあなた次第。つまり感覚で決めることです。最適の足幅は最も力が発揮できる通常肩幅位になります。これをパワーポジションと呼びます。"最も重力に抵抗して高くジャンプできる足幅間隔=最もパワーが出せるポジション"と考えます。スプリント選手にはこの足幅間隔で前方に移動し、着地できれば一番力が発揮できると指導しています。最近良く耳にする二軸走理論は走りを一本橋のように移動するのではなく、電車のレールのように足を進めてそこに重心を乗せる技術を指します。足先の向きは真直ぐに向けることです。足先がハの字や逆ハの字では高く跳べません。足のポジションが決まりました。
次に脚の屈伸です。深すぎても浅すぎても力は発揮できません。最適の深さはあなた次第。これも感覚です。

 これがスタートポジションとなります。この姿勢をよく見て下さい。(写真1)ウエイトトレーニングのスクワット姿勢とよく似ています。この姿勢で特に留意するのは骨盤を立てることです。この骨盤を立てる姿勢によって腹圧が高まり体幹を使う動作となります。このスクワット姿勢は脚のパワーを導き指すために重要なポジション作りです。

次に腕の働きを考えて行きましょう。腕、指は力の方向性を決定する舵の役割をします。また、脚から体幹と地面反力から伝達された力を繋ぐ終末期の動作として重要です。垂直跳びでは力を鉛直方向に身体移動させることから腕、指は上に振り上げることが大切です。特にサムアップポジションと呼ばれる親指を上に向ける動作が技術ポイントになります。どうでしょう?垂直跳びと言う単純な動作でも分析をするとこのようなファクターが存在します。陸上競技のトレーニングは動作ひとつひとつを細分化して必要な要素を意識下に置いて実施することが特長です。

 立ち幅跳びでもほぼ同様の要素に基づき実施します。垂直とびと違っているのは前方へ移動することからスタート姿勢が前傾している点です。(写真2)スタートダッシュで加速するためにはこの前傾姿勢が決定要因になります。垂直跳びと立ち幅跳びはスポーツテストの種目になっていますが、スプリント選手の身体的な素質の決定要因となる重要な動作です。これら2種目は前述の筋の速い収縮を促す動作です。

もうひとつの筋の伸張反射を促す動作を紹介しましょう。一般的にプライオメトリクスと呼ばれる運動で反射の動作であることから速い動作意識を持つことが最優先となる訳ではありません。腱の反射が体幹を介してスピードに転換できることがポイントです。
スタートダッシュはクラウチングスタイルの速度ゼロから一気筋の速い収縮でパワーを全開にして加速します。その後関節の伸展を極力減じた筋の伸展反射の動きで前方へ進む動きに転換します。カラテの場合は瞬間的に移動しなければならない攻撃や防御の反射的な動きが該当するものと思われます。

最近のスプリント研究ではレベルの高い、速度の出せる選手ほど足関節や膝関節の屈曲、伸展動作をしていないことを報告しています。従来は速く走るためには足首のキックや素早い膝の曲げ伸ばしが重要とされてきましたが、現在では全くの反対で指導しています。同様に疾走時膝の高さである腿を高く上げる"腿上げ走り"もスピードに繋がらないことが判り今ではそれを意識させる技術指導は行っていません。従って速く走るために"腿を高く上げろ"と指示する指導は間違いです。腿を上げる意識ではなくて速く下ろして地面からの反力を得る指導に様変わりしています。このような理由から筋反射を利用した運動はスピードを高める要素を含む重要なトレーニングとして日常的に実施しています。

(写真3)台の上にから真下に降り足の裏全体で着地して反射の動きで戻るデプスジャンプ。

(写真4)ハードル連続ジャンプ。反射の動きで上がった脚を引き上げる動作でハードルをクリアする連続ジャンプ。この写真は身長160cmの選手が107cmの高さのハードルをクリアしているもの。10秒台で走る高校1年生の選手。

(写真5,6,7)台の上に跳び上がり、そのから一気に身体を上方へ伸ばす  ジャンプ
     

(写真8)3~5kgのメディシンボールを使ってのバックスロー。脚のパワーと力の伝達が体感できます。このスタート姿勢もスクワット姿勢であることがわかるでしょう。

次は、体幹の働きを反射レベルまで高めることを目的としたスリングトレーニングを紹介しましょう。
スリングトレーニングとは"吊るしながらのトレーニング"です。リハビリテー  ションの世界では周知されている施術ですが、女子100mで日本記録を連発している福島選手が"レッコード"(商品名)を用いてトレーニングしていることを発表してから話題になりました。

本校ではスリングトレーニングのコンセプトを受けつつ簡易で安価な方法として柔道着の帯を使ってスリングトレーニングを実施しています。
このトレーニングは単関節の2次元的な筋力強化では成しえない異なる運動方向である3次元的パターンでの全身的機能改善に優れた方法であると言えます。動きの中での筋力強化、スポーツ競技の場面で求められる体  幹を反射的に高める現場に直結した練習方法です。重力の影響を軽減する状態でのトレーニングであることからその負荷は体幹部、それも深部へかかります。通常の腹筋運動では鍛えられない部分にまで負荷をかけることができます。更にバランスを求める要素があることから身体重心と身体各部の相互的な連携がひとつの動作として出現している事実を体感することが可能です。

パワーを生み出す動作、スピードを伴った動きの出現時に腹筋を締める必要性はしばしば論じられます。体幹トレーニングの重要性の根拠となるものです。日常生活的にはくしゃみをする際腹筋に力が入ることやまた、そ  のくしゃみが激しいものだとしっかり腹筋を締めていないと腰を痛めることにもなることは体験的に知っている方も多いでしょう。このトレーニングは随意的(意識して)に体幹を締めることで運動動作が可能になります。動作が継続して反復できるようになると附随意的(無意識)に運動ができるようになります。体幹に対して無意識下での運動継続は適切な呼吸法とも関係して不必要な力みを排し、リラックス効果を生み出します。それによって高いスピードの出現、強いパワーでの力の発揮に繋がるものと考えています。

(写真9,10.11) 吊るした柔道着帯に立った状態で左右開脚、前後開脚、スクワットを連続して実施します。  かなりバランスをとるのが難しいことから最初は帯を持ちながら行います。
     

(写真12,13)吊るした4本の柔道着帯に両手、両脚で腕立て姿勢を作ります。そのまま腕立て伏せをしたり上体を固定して脚を引き付けたりするバリエーションが有ります。
  

(写真14)吊るした柔道着帯に足首を固定して揺れないようにしながら上体を起こす腹筋運動。膝を曲げることで大腰筋周辺も強化できます。

(写真15)片足を吊るしてもう片方をバランスクッションの上で立ちメディシンボールを頭上に保持した片脚スクワット。バランスと体幹保持、大殿筋の強化がポイントです。

今回紹介したトレーニングは一部に過ぎません。陸上競技スプリントトレーニングは速く走るために様々なトレーニングを実施してします。このトレーニングはパワーを追及するあらゆるスポーツの原点であることを認識して頂ければ幸いです。

(2010.4)

 



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