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2010年11月16日 火曜日

リングドクター業務

リングドクターの戦い 

 これまで総合格闘技や打撃系のプロ競技イベントのリングドクターを務めさせていただく機会がありました。
リングドクターは格闘系の大会には絶対に必要です。
リングドクターは鍼灸師や柔道整復師ではなく専門医師が担当します。
業務の内容上、整形外科や外科系の医師が担当することが多いようです。
リングドクターは試合中のみならず 試合前のメディカルチェックや試合後の負傷の診察も行います。
実はこのメディカルチェックが大変な業務です。
安全に試合ができるよう選手一人ひとりのコンディショニングや身体情報をチェックする必要があります。
中には大きな怪我や眼科的疾患を隠して試合に臨もうとする選手も少なくありません。
打撃系の格闘技は脳へのダメージも避けられないので事前に極力リスクを排除し、万全な状態で試合に臨んでほしいと考えています。

具体的なメディカルチェックですが、限られた時間内の診察では

 1)血圧測定
2)体温測定
3)脈拍数計測
4)問診
5)脳神経機能チェック
6)心音チェック
7)呼吸音チェック
8)視診によるチェック

が主となります。

診察していて驚くことは、体温が37℃を超える選手が少なくないことです。
中には37.5℃を超える選手もいます。
しかし、発熱しているわけではなく鍛えられた筋肉が熱を発生していわゆる ウオーミングアップ状態です。
試合中のリングドクターは、選手のダメージの診断やドクターストップなど重要な判断を求められます。
怪我の見極めが重大な結果を招くことがあり、早すぎるドクターストップは選手の成績やモチベーション、選手生命にも影響を与えます。
特に、パンチやバッティングでカットした傷は慎重に深さや部位、長さを診察して試合続行が可能かどうかの判断を行います。
 私が、ドクターストップする場合は、動脈、静脈の断裂、止血が困難で眼球へ多量の血液が混入し視力を大きく低下させる場合、筋肉層まで達する深い切開創で打撃によりさらに創が深部まで及ぶ可能性がある場合です。
今後の選手生命を考えれば当然な判断と考えます。
また、眼球の破壊や顔面の骨折が疑われた場合も直ちに試合をストップします。
選手たちは極限下の状態では痛みを感じない場合もあり選手の希望とは異なる結果になることがあります。

また、ダウンをした後で脚がふらつき満足に歩けない状態では、脳しんとうであり脳へのダメージ、首の緊張低下を考えると極めて大きなリスクになり試合続行は勧められません。

首の緊張が低下した状態で頭部への打撃が加わると脳へ大きな揺れが生じて大きなダメージが加わわって急性硬膜外血腫が発生することがあり、大変危険な状態です。
プロボクサーが試合後に意識がなくなり死亡する事故は急性硬膜外血腫によることが多いようです。

選手の生命を守るためにもリングドクターは欠かせない存在ですね。
リングドクターを任されることは光栄であるとともに、とても責任重大です。

さて、今回は2009年11月1日 Zepp  Nagoya で開催されました、総合格闘技と打撃系格闘技の東海地方最大イベント HEAT 12 のリングドクターを担当させていただきました私が具体的な仕事とイベント内容を紹介させていただきたいと思います。

 HEATは、名古屋出身の選手たちの戦いの場として、格闘技ジム志村道場が2005年 第1回大会はクラブOZONで、第2大会『HEAT 2nd.』は、愛知県武道館の大競技場で盛大に開催されました。
2007年に入ってから第3回大会『MARTIAL ARTS REMIX -HEAT-』として、名古屋のイベント発信地ZEPP NAGOYAで開催されたのを皮切りに、第4回大会『MEGABATTLE HEAT4 from Nagoya』が愛知県体育館、『HEAT5』を名古屋国際会議場で開催されました。

HEAT4からは名古屋初の八角形金網リングを導入、日本初となる金網の中でのキックルールの採用など新たな取り組みを行っています。名古屋から世界へ、日本対世界というコンセプトとともに、常に新しいことへの挑戦を続けていくと同時に、単なる強さだけにとどまらない、格闘技の美しさを追求、HEATチャレンジマッチ・HEAT NEW AGE CUPというアマチュア大会と本選への登竜門を提供するなど、新人選手の発掘にも力をそそいでいます。日本の中心"CENTRAL JAPAN"名古屋から、総合格闘技、キックボクシング、ムエタイ、空手、女子格闘技、プロレスまで、既成概念にとらわれない熱い戦いを世界へと発信します。
ハイレベルな戦いがファンの注目を集め、東海地方で行われる最大格闘技イベントとしての地位を築いています。

 HEATでのリングドクターの仕事はまず、試合前の選手のメディカルチェックからスタートします、血圧測定、脈拍数計測、体温測定、脳神経チェック、心音、呼吸音チェック、問診を行います。その後、簡単にレフリーと試合のルールと、どの程度のダメージでドクターコール、ドクターストップするかなどを打ち合わせます。
メディカルチェックが終了するとリングサイドのドクター席で試合の観戦とドクターコールがかかった時のために待機します。

試合後にも気分が悪くなったりダメージを負う選手のためにも必ずドクターは2名待機します。
レフリーから呼ばれた時はすぐに選手の傷やダメージの状態を診察しますが、試合の状況やダメージを受けた状況も必ずしっかり把握するよう観戦することも必要です。

今回のHEAT12では白熱した試合が続いて多くのドクターコールがかかりました。
その中で最も多かったのが、バッティングによる額の裂創でした。
筋肉層まで到達していたり血管損傷があり圧迫での止血が困難な場合はすぐにドクターストップになります。もし、この状態で試合が継続し相手のパンチやキックが当たれば大きく皮膚が裂けダメージが深刻になります。

選手は試合を止められることを極力嫌がりますがルールあるスポーツではやむをえません。
今回の大会で私が、ドクターストップをかけた選手はバッティングで眉間の皮膚が4センチほど裂け出血は少なかったのですが、筋肉層まで創が到達し細い静脈が見えたので試合続行不可能と判断しました。
もう少し、という考えもありますが、次のダメージで大きなダメージに代わる可能性が高い場合は、ドクターストップとなります。

 メインイベントはK-1 JAPAN GP 2005準優勝の富平辰文選手とK-1トライアウトにも合格しムエタイ300勝を誇るペルシャ・モスに完勝した無敗の新鋭 田中STRIKE雄基選手の試合でした。怪我で長期戦線離脱、1年4か月ぶりの復帰戦である富平選手にとって絶対に勝利を収める必要がある相手でした。試合はいきなり富平選手のパンチ、キックが顔面へクリーンヒット。田中選手はダウンしかなりきいている状態でした。
すこし足もとがふらついていましたが捨て身の攻撃で突進。

この時、突進した田中選手の頭部が富平選手の額に激しく当たり 富平選手の額から血が噴き出しました。
すぐにレフリーからドクターコールされチェック。

 傷の深さは前の試合でドクターストップをかけた選手よりも浅かったのですが、細い静脈損傷を疑われなかなか出血がとまりません。動脈損傷の場合はすぐにストップですが、静脈損傷の場合はストップの時期に迷いが出ることもあります。

レフリー、選手、主催者とも試合続行を強く希望されていましたが、医学的な判断ではドクターストップかどうか迷う状態でした。

1分ほどの圧迫止血でなんとか出血が減少しました。再度出血が増加するようであればすぐに試合を止めてドクターチェックし、その時に判断を再度行う条件で試合を再開。

田中選手はすでに脳へのダメージがあり 再開後、10秒ほどで富平選手のKO勝利となりました。
もう一人のドクターはKO負けを喫した田中選手のメディカルチェック、私は富平選手の創の再チェックを行いました。

幸い、大事には至らず試合も完結し観客も選手も主催者も満足された結果に終わりホッとしました。
ドクターストップの判断で大きな興業が成功するか中途半端に終わるかまで左右されることもあります。
時には選手の実績や選手生命も変えることもあります。

大変な責務がある仕事ですが、格闘技を愛する自分にとってはやりがいがある業務です。

また、今回の大会では1名の失神KOされた選手がでました。
相手のパンチが顔面に入り一瞬で意識を失い 目が泳いで視点が定まらない状況でした。即座にレフリーストップ。ドクターコールがかかり呼びかけに数秒間応答がありませんでしたが、意識が戻り脳しんとうによる意識喪失でした。

担架での退場後、控室でドクターが付き添いメディカルチェック、2時間後、問題がないようなので今後の注意事項を説明して帰宅を許しました。

また、一瞬意識が飛んでKOされた選手もでました。

 セミファイナルに出場した戦闘竜選手は試合開始直後から圧倒的なパワーで一方的に相手選手に打撃を加え失神寸前まで追い込みましたが、ガードを行わず攻撃していたため相手の放ったラッキーパンチが顔面へヒット。ふらつく相手のパンチに滅多打ちにされ意識が遠のいたところでレフリーストップ。重量級の試合には何があるかわかりません。しばらくリング上で安静にして様子を見ていていましたが問題なく自分で歩いて退場となりました。凄まじい逆転劇、会場のファンは多いに興奮されたことでしょう。この場合、大至急選手のもとへ向い脳ダメージのチェック、呼吸、心音、などバイタルサインチェックを行います。

意識を失った状態で頭部へのダメージが加わると首の緊張がないため深刻な脳へのダメージが避けられません。

失神KOされた選手は原則、担架での退場となります。
選手が死亡する事故は、絶対にあってはならないことで、レフリーもドクターも瞬時にこういったダメージが選手に与えられたかを見抜く経験と判断が要求されます。

これまで、私は女子総合格闘技リングドクターやプロボクシングセコンドを数多く務めさせていただいた経験からリングドクターとしての判断が自信をもってできるようになりました。
しかし、会場では医療機器も無い状況です。

 挿管キットや人工呼吸バッグなどは用意されており、万が一の事故に対しての備えはありますが、迅速な対応、連携、絶対に必要です。

怪我をした選手は出ましたが、幸いにも大きなダメージで歩行ができないほどの選手は出ませんでした。
ギリギリのトップ格闘家によるリアルファイトが観戦できて多くのファンは満足されて帰宅の途についたことでしょう。

今後も、リングドクターとして選手たちが安全に試合が行えるよう微力ですが努めてまいりたいと思います。

 

(2010.1)

 



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